灰色の話

江戸時代、日本で流行した色。

茶色と灰色。

 

奢侈(しゃし)禁止令によって庶民の華美が禁止され

紅、紫、金糸銀糸・・など、きらびやかな色は纏えず

許された色は地味な茶色と灰色。

 

そんな制限に逆らうのではなく

受け入れたうえで最高に楽しむ、粋の精神の発揮。

 

茶や灰にさまざまな変化をつけ

偉人や風月山水などから

ゆかりのある名前をつけ

微妙な色相の変化を最高に謳歌した町人たち。

 

 

四十八茶百鼠

(しじゅうはっちゃひゃくねずみ)

 

 

茶色は48、灰色は100。

実に多くの灰色が生み出された。(※)

 

灰色とは、

木や藁などが完全に燃焼した後に残った状態の色。

文字通り、灰の色。

 

 

火事の多かった江戸では「灰」の字が忌み嫌われ

鼠色と呼ぶ方が好まれたようで

 

利休鼠(りきゅうねずみ)

――やや緑味を帯びた鼠色。

 

深川鼠(ふかがわねずみ)

――薄い水色を合わせた明るい鼠色。

 

鳩羽鼠(はどばねずみ)

――ほんのり紫がかった鼠色。

 

銀鼠(ぎんねず)

――月光に照らされた砂浜のような鼠色。

 

・・・

 

などなど、

素敵な名前の灰色たちが生み出され

庶民の装いを豊かにした。

 

 

曖昧、陰鬱、憂鬱のイメージを持ちながらも

 

灰色は、

枯山水が醸し出すような、落ち着きのある静かな色。

 

 

江戸の町人が愛したように

精神的な豊かさが反映された粋な色。

 

 

※実際に100もあったかは不明で、現在文献からたどれる鼠色は約70。